2018年度の一年間、私はUNIRITAユーザ会に参加し、「IoTによるバイタルデータ分析と疲労度測定」に関する研究活動をしてきました。今回はその活動内容と結果についてお伝えします。
目次
UNIRITAユーザ会とは
UNIRITAユーザ会とは、様々なIT環境のメンバが集まり、情報交換、意見交換を行う場で、2019年7月5日時点で249社が参加しています。(UNIRITAユーザ会Webサイト)
このUNIRITAユーザ会が、他の多くのユーザ会と異なる大きな特徴は、“1年を通した研究会活動による技術力向上”です。ユーザ会の活動の一つである研究部会に参加すると、1年を通し、様々な会社の方々とチームを作り研究活動を行います。そして1年間の活動の締めくくりとして、その研究結果を毎年3月に開催されるユーザシンポジウムで発表します。
研究活動の始まり
私はUNIRITAユーザ会の中で、情報活用研究部会に参加し、研究を進めることになりました。
研究活動では参加者をいくつかのテーマ毎にチームに分け、そのチームで1年間研究を進めます。私が属したのは「IoT時代におけるビッグデータ分析」について研究を行うチームでした。
2018年5月、キックオフとなる第1回目の会合で、チームメンバーに会いました。メンバーは、私含め様々な形でIT業界に携わる20代~40代の6名と、チーム運営やアドバイスなどサポートをしてくださる事務局の方2名の計8名。
チームによってメンバー数や年齢、普段の仕事のポジションもそれぞれ異なります。今思えばこの8名という人数、そしてメンバーのバランスがすごく良かったと思います。それぞれが当事者意識を持つことができ、人任せになることも少なく、また持ち合った意見やアイデアに対し全員で議論ができたことが、この研究がうまく進んだ要因と思います。
研究テーマは「IoTバイタルデータ疲労度測定」に決定
研究活動の始めにしなければならなかったことが「研究テーマの決定」。大きな枠として「IoT時代におけるビッグデータ分析」というテーマはありましたが、詳細はチームで決めなくてはなりません。
IoTという切り口から様々な意見がチームメンバーから出ましたが、2019年度から始まる有給休暇取得の義務化を意識し、「IoTにより取得したバイタルデータから疲労度を計測し、その計測値から有給休暇取得を促すこと」をテーマに決定しました。
「IoTバイタルデータ疲労度測定」内容
研究テーマが決まり、実現したい事が明確になったため、課題も浮き彫りとなりました。
課題は大きく分けて二つありました。
- 疲労度はどのように計測するのか
- バイタルデータを取得するためのIoT機器はどうするか
疲労度はどのように計測するのか
論文調査を行ったところ、疲労度に関する明確な定義や計算方法が存在する訳ではないことがわかりました。
私たちは調査した中で比較的有効と言われているいくつかの方法から、「自律神経系の機能解析」に注目し研究を進めることとしました。
バイタルデータを取得するためのIoT機器はどうするか
次に、直面した課題は「どのIoT機器を使うか」です。
「自律神経系の機能解析」には心拍データが必要であることは分かったのですが、1年間という短い時間でIoT機器を1から作成することは困難です。また、研究費も限られているため、高価なセンサー機器は使用できません。
そういった中から比較的安価であり、構築も簡単であったという理由からRaspberry Pi (超小型のシングルボードコンピュータ、以下ラズパイ)とセンサーと使い、何かデータを取得できないか試してみました。
結論から述べると、これは失敗でした。心拍数は計測できたのですが、2つの問題が発覚しました。
- コンセントにつないだままのラズパイを抱えて日常生活は送れない
- 少しでも体が動くと、服や家具が触れるときの振動など、ノイズのような心拍以外のデータがセンサーに計測される
この理由からラズパイとセンサーを使用した方法は断念。結局、IoT機器はスマートウォッチを使用し、心拍データをクラウド経由で収集することとしました。
視覚的にわかりやすく疲労度を出力
収集したデータは心拍変動解析(後述)により疲労度を算出し、スプレッドシートに出力することとしました。スプレッドシートには、座席表を設け、各座席上に疲労度を出力しました。これで事業所内の社員がどの程度疲労度が溜まっているのか視覚的にもわかるようになりました。
このシートを活用し、会社内で「設定したしきい値を超えたら休暇を取らせる」「疲労度上位者に休暇をとらせる」などルールを作れば、有給休暇の取得を促せる仕組みが作れます。
心拍変動解析による疲労度の算出方法
私たちが用いた疲労度算出方法は心拍変動解析と呼ばれるものです。この方法は、心拍間隔の変動をもとに自律神経のバランスを数値化し疲労度を算出します。単純に心拍数が上がったからストレスが溜まっている、とするのではなく、心拍の間隔、心拍の強さなど複雑な計算式により、ストレスを測定する方法です。
詳しく説明すると、長くなるためここでは割愛しますが、メンバー全員でこの方法を理解し、なおかつシステム化を行う部分がこの研究で一番難しく、また時間もかかりました。
しかしながら、実際に構築して検証をしてみると、疲労度が、プレゼン発表前にはストレスで上昇し、インフルエンザにかかった時は上がり治ると下がるというように、目に見える形で数値化でき、研究の結果を実感できました。実際に家庭の介護へ役立てているメンバーもおり、活用の有効性に自信を持てるものができたと思えました。
UNIRITAユーザシンポジウムで最優秀賞受賞
2019年3月に行われたシンポジウムにて、1年間の研究成果を発表した結果、見事、最優秀賞を取ることができ、メンバー全員で喜びを分かち合いました。
普段の仕事内容や職場におけるポジションや境遇がバラバラなメンバーが集まり始まった研究でしたが、様々な意見や視点に触れることができ、なおかつ結果もついてきたことで、とても有意義な1年でした。
最後に、1年間共に研究したメンバー、研究を円滑に進めることができるように尽力してくださった運営の方々、そしてこの活動へ参加を理解してくれた会社・現場のメンバーに感謝を述べ、この記事の締めとさせて頂きます。1年間ありがとうございました。
執筆者プロフィール
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入社以来、企業向けのWebシステム開発に従事しています。
Javaがメインの案件に多く携わってきましたが、最近VB.NETを新たに触り始めています。