シリコンバレーベンチャーキャピタル最新事情

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先日お客様の要望で、多くの新興企業や技術系のグローバル企業が密集することで有名な、シリコンバレーの視察をアレンジし、ベンチャーキャピタルと複数のベンチャー企業を訪問してきました。

日本の基礎研究はそこそこ評価され、ノーベル賞も生まれているものの、今後は少なくなると予測されています。(参考:「日本人はノーベル賞を取れなくなる?進む科学技術力のちょう落」NHKオンライン)

また、ビジネスの世界では、ほとんどイノベーションが起きていません。その理由は失敗の少なさ。しかも早く失敗して早く学ぶことが必要です。ベンチャーキャピタルもマネーゲームの世界を抜け出しておらず、若く元気なベンチャー企業は投資家からエグジット(投資のリターンを回収すること)ばかり求められ、元気を失っていきます。

もちろん、シリコンバレーには今回紹介するようなベンチャーキャピタルばかりがいるわけではありません。ただ、個人投資家のエンジェルも含め、日本の恵まれているとは言い難いベンチャー企業支援環境と比較して、大きく異なる点について触れたいと思います。

未知のベンチャー企業に出会うためシリコンバレーへ

今回のシリコンバレー渡航の背景は、お客様の社長直轄プロジェクトが先進のテクノロジーとソリューションを求められており、まだ世の中に大きく出ていないシーズレベルの情報を調査する必要があったのがきっかけです。

UberやPayPalのような、既に破壊的イノベーションを創りだしているベンチャー企業情報ではもの足りず、シーズから実現可能性を評価し終わったあたりの企業を調査したいという点がお客様の要望でした。

ベンチャーキャピタル「COTA CAPITAL」

今回お客様に紹介したベンチャーキャピタルは、「COTA CAPITAL」。彼らは自社の説明に

WE ARE A HIGHLY THEMATIC STAGE-AGNOSTIC INVESTMENT PLATFORM

という表現を使っています。まさしくシーズを抜け出したが、まだ立ち上がったとは言えない、しかし実現可能性はあるベンチャー企業を支援しているキャピタルです。元々エンジェル投資家であった2人の創業者が2014年に設立したベンチャーキャピタルで、現在65社に出資しているとのことでした。

ベンチャーキャピタル「COTA CAPITAL」の思想

COTA CAPITALが他のベンチャーキャピタル、特に日本の投資家と大きく異なる点がいくつかあります。

創業者を尊重

創業者の意向を尊重し、エンゲージメントを最大限重視しています。オーナーシップも毀損することがないように、通常の出資は全株式の10%から15%程度。ベンチャー企業が必要としたり資金面で支援する必要がある場合は大きく出資しますが、それでも50%を超えないことに気を配っています。

エグジットを設けない

COTA CAPITALは「evergreenで支援する」という表現を用いていましたが、IPOや企業売却など、投資回収を意識した強要は絶対にしない方針と言っておりました。それはベンチャー企業の創造性を欠く行為に繋がるということがその理由です。

オペレーションに関与

彼ら自身が起業し成功を収めてきたので、ただ単に投資を行うだけではなく、オペレーションに深く関与することが基本方針となっています。不必要な介入はしないが、特にビジネス的にタフな状況に直面した時こそ、経験の少ないベンチャー企業を支援することが重要と考えているそうです。

 

これらと似たようなメッセージを日本のベンチャーキャピタルからも聞いたことはありますが、部分的であることも多く、COTA CAPITALはコミットメントのレベルが異次元であると感じました。

投資領域

COTA CAPITALが最もフォーカスしている投資領域は、モダナイズされたソフトウェアです。この主な理由は3つあります。

1つ目は初期投資の軽さ。よく日本の第三セクターが設備投資からスタートしていますが、ほとんどが失敗しています。一方、クラウド環境で提供されるソフトウェアは、簡単にスタートアップでき、スピード感も出せる上に、軌道修正もしやすいです。

2つ目は、グローバル展開がしやすいことです。インターネットでのサービスは、即時に世界中の受益者へサービスを届けることができます。

3つ目は、生み出されたデータに価値があるという点です。今やデータを握るものが世の中をコントロールし始めています。「過去18ヶ月で蓄積されたデータ量は、それまでに人類が生み出したデータ量より多い」と、彼らは説明していました。

また「投資領域」に加えて重要な「投資タイミング」に関しては、イノベーションサイクルと経済サイクルのバランスを最も重視していると話していました。

投資可能性

COTA CAPITALは、起業家に優しいベンチャーキャピタルではあるものの、投資対象となるかどうかの判断は極めて厳しい印象を受けました。2017年は最終的に12社への投資を行ったそうですが、投資依頼を含め投資対象となった企業は800社から1000社であったとのこと。つまり投資に至るのは約1%。起業家と一緒に歩むという姿勢であるからこそ、投資対象の見極めも厳しくなるのだと思われます。

おわりに

筆者は彼らのエンジェル時代から付き合いがありましたが、つくづく彼らの先見性には驚かされます。

「渋谷のセルリアンホテルに今育てている若者がいる」というので挨拶をしたら、なんとGoogle創業者のセルゲイ・ブリンでした。もちろん上場前で、「日本の美味しい鮨を食べたい」とのことだったので銀座の鮨店を予約してあげた記憶があります。Salesforce.comやNEXTBIOにも投資していたし、守りの観点で言えば、リーマンショックの前には「今は株など買わず、現金を持つことが重要」と言っていたことにも驚かされました。

卓越した先見性と若き起業家を徹底的に支援する姿勢を持つ投資家の存在と、イノベーションが自然に生まれてくる環境。日本政府の補助金などとは全くレベルの異なる動きを見ていると、日本でイノベーションが生まれない理由がわかる気がするのは私だけでしょうか。

UberやAirbnbのようなユニコーン企業を目指すことは難易度が高いかもしれませんが、当社においても、イノベーションを起こせる環境をつくるべく、少しずつ変革を行っています。「世の中の課題は何?」「その課題を解決するソリューションは?」と考え続ける人財を支援していきたいと強く思います。

お問い合わせ先

執筆者プロフィール

Hosoi Kazuo
Hosoi Kazuotdi ソリューション本部
外資系日本法人代表、コンサルティング会社社長等を経て、現在、情報技術開発株式会社 取締役 上席執行役員としてソリューションビジネスの責任者。
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